「うちの子、もしかして…?」感覚過敏から知る自閉スペクトラム症(ASD)の特徴と対応
「うちの子、他の子とちょっと違う…?」
周りの子と同じように接しているつもりなのに、なぜかうちの子だけ反応が違う。
もしかして、育て方が悪かった…?そんな風に悩んでいるあなたへ。
実は、こうしたお子さんの「違い」は、自閉スペクトラム症(ASD)の特性である「感覚過敏」や「感覚鈍麻」が原因かもしれません。
この記事では、ASDの特徴や対応について詳しく解説し、具体的な対応策や役立つヒントをご紹介します。
どうか一人で悩まず、この記事を参考に、お子さんの「困った」を「個性」として受け止め、より良い親子関係を築く一歩を踏み出しましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)とは?
自閉スペクトラム症は、ASD(Autism Spectrum Disorder)と略されることもあります。
ASDは、発達障害のうちの1つで、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などが含まれます。
ASDの主な特徴
ASDの主な特徴は以下の3つが挙げられます。
- 社会的コミュニケーションの障害: 人とのコミュニケーションが苦手で、表情や声のトーンが理解しにくい、自分の気持ちを伝えにくいなどの困難さがあります。
- 行動、興味が限定的でこだわりが強い: 興味のあることに集中し、決まった行動パターンを好み、変化を嫌がる傾向があります。
- 感覚が敏感もしくは鈍感: 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの感覚に対して、過敏または鈍感な反応を示すことがあります。
これらの特徴の程度は、人によって異なり、軽度なものから重度なものまで連続的に存在するため、スペクトラム(連続体)という言葉を用いて、自閉スペクトラム症という名称が付けられています。
詳しくは以前に記事にしたことがあるので、こちらを読んでみてください!
ASDの感覚過敏・感覚鈍麻とは?
ここでは、ASDの特性の1つである感覚過敏と感覚鈍麻について解説していきます。
感覚とは?
感覚とは、外的環境及び身体内部からの刺激を受容する役割である。
感覚は受容する情報の種類によって視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚の五感と運動感覚、平衡感覚、内臓感覚、計8種類に分類できる。
感覚過敏と感覚鈍麻の種類
感覚過敏・感覚鈍麻は、大きく分けると以下の6つがある。
- 聴覚過敏:突然不意になる音への恐怖
- 視覚過敏:目の前をふいに人が横切る、物体が現れることへの恐怖・不安
- 触覚過敏:後方から突然触られる、服の肌触りへの不快感
- 味覚過敏・鈍麻:濃い、薄いなど極端な味付けを好む
- 嗅覚過敏:微かな匂いが気になり、繰り返し嗅がずにはいられない
- 身体感覚過敏・鈍麻:気圧や温度変化による身体不調、自身の疲れ具合がわからない
ASD者の自伝によれば、これらの感覚の問題が大きな苦痛になっている。
ASDにおける感覚過敏の具体例
ここでは、私が実際に担当した生徒の具体例を紹介します。
聴覚過敏
私が出会った中で一番多かったのが聴覚過敏です。
年齢や性別に関わらず、過敏な生徒が多かったです。
- 大きい音が苦手: 学校の体育館や音楽室の大きなスピーカーから流れる音が苦手。
- 雑踏の音が苦痛: 大勢の声やざわめきが苦痛に感じる。
- 急な音に過剰に反応する: 学校行事のときなどに急に鳴る音楽や花火などが苦手。
ストレスが溜まっていると余計に敏感になるようで、少人数教室や静かな教室でも気になってしまうことがあります。
視覚過敏
視覚過敏で非常に困っている生徒は少なかったですが、「実は少ししんどい」という生徒は一定数いました。
基本的には我慢しているということが多いようです。
- 明るい部屋が苦手: 教室が白を基調とした明るい部屋は眩しく感じる。
- プリントが見にくい: 白色や光沢のあるプリントが眩しく感じる。
教室の電灯やプリントの白さなどが眩しく感じてしまうことがあります。
触覚過敏
中学校では授業の内容的にあまり見られませんが、小学校では触れ合う授業が多いので困る子どもが多いです。
授業以外でも触覚過敏の影響で日常生活に支障が出てしまう人もいます。
- 服の肌触りへの不快感: 皮膚感覚が過敏なことにより、服の素材へのこだわりがある。
- 苦手な触覚: 感覚過敏のため、他の人が好きな触覚を楽しむおもちゃや砂遊びなどが苦手。
味覚過敏
ASDの子どもは、こだわりによる食べ物の偏食がありますが、味覚過敏による偏食の可能性もあります。
- 好き嫌いが多い: 少しの違いがわかるため、好き嫌いが多い、もしくは細かくなる。
嗅覚過敏
私はそこまで多く出会ったことはありませんが、もしかしたら理由なく嫌がっていた子どもは嗅覚過敏の可能性があったかもしれません。
- 部屋や建物の匂いが気になる: 嗅覚過敏の人は初めて訪れる場所の場合、匂いが気になり集中できない場合があります。
身体感覚過敏
嗅覚過敏と同様で、確実に身体感覚過敏だと思う児童生徒には会ったことはありませんが、一定数はいたと思います。
- 天候や温度変化に敏感: 気圧や温度変化により体調を崩しやすい。
ASDにおける感覚鈍麻の具体例
ここでは、実際に私が出会ったり担当したことがある感覚鈍麻の子どもの具体例を紹介します。
味覚鈍麻
味覚過敏と少し違う点は、好き嫌いが多いというよりも、味へのこだわりが強いところです。
- 濃い味付けを好む: 感覚過敏とは違い、感覚が鈍いので濃い味付けを好む傾向があります。
身体感覚鈍麻
中学生よりも、小学生の方が目立ちやすく気づきやすいと思います。
- 寒さや痛みに鈍感: 真冬でも半袖半ズボンで外で遊ぶ子どもや、いつの間にかケガをしている子どもなどが多いです。
感覚過敏・鈍麻によって引き起こされる行動
感覚過敏は、時にパニックや癇癪、回避行動といった強い反応を引き起こします。
パニックや癇癪
パニックに陥った子どもは、大声で叫んだり、泣きじゃくったり、暴れたりすることがあります。
これは、過剰な刺激から身を守るための防衛反応であり、決して親の言うことを聞かないからではありません。
癇癪は、感覚過敏によって蓄積されたストレスが爆発する形で現れます。
些細なきっかけで怒り出し、泣き叫んだり、物を投げたりすることもあります。
回避行動
回避行動は、苦手な刺激を避けるために、特定の場所に行きたがらなかったり、特定の活動に参加しなかったりする行動です。
例えば、騒がしい場所を避ける、特定の食べ物に触れたがらない、などの行動が見られます。
これらの行動は、周囲からは「わがまま」や「落ち着きがない」と見られがちです。
しかし、本人にとっては、感覚過敏による苦痛から逃れるための必死の行動なのです。
感覚過敏・鈍麻への支援
感覚過敏・鈍麻への支援には、大きく分けて2つあります。
それは、「感覚の違いへの理解と配慮」と「環境調整」です。
感覚の問題への理解と配慮
まずは、ASDの人は感覚の捉え方が異なることを理解することが大切です。
本人でさえ言葉にできないこともあるので、「もしかしたら、何かの感覚に困っているのかも」と考えて、代弁してあげることで、本人の苦しみや不快感を和らげることができます。
感覚の違いを理解できれば、事前に問題を回避できるよう配慮することもできます。
環境調整
感覚の違いを理解したら、ASDの人が苦痛や不快感を感じないような環境を作ることが大切です。
これは生まれ持った感覚の違いなので、ある程度慣れることはあっても、根本的に治るものではありません。
そのため、「矯正する」という考え方ではなく、「回避できる環境を作る」方が大切になってきます。
感覚の問題は人によって全く異なるので、それぞれに合った対応が必要です。
感覚過敏・鈍麻に対する具体的な対応策
ここからは、実際に行ったことのある家庭と学校での対応策を紹介します。
家庭での対応策
ここからは、感覚別に家庭でもできる対応策を紹介します。
聴覚過敏
- イヤーマフ: 装着による個人差が少なく、安定した遮音効果を発揮します。最近ではヘッドホン型のおしゃれなデザインも発売されているので、外出先でも抵抗なく装着できます。
- ノイズキャンセリングイヤホン: 金額は高めですが、遮音性は高いです。閉塞感があるので、好き嫌いが分かれるアイテムです。
- 苦手な音を理解しておく: 苦手な音が分かっていれば、苦手な場所に行かないようにしたり、自宅でも配慮した環境を作ることができます。
視覚過敏
- 遮光カーテン: 直射日光を遮断でき、明るさを調整しやすくなります。
- 明るさを調整できる照明: 自分のちょうど良い明るさに調節でき、快適に過ごせます。
- 色付きメガネ・サングラス: 急な明るさに対応できるので、色付きメガネやサングラスはかなり便利です。
触覚過敏
- 服のタグを切る: 首元のタグが苦手な人が多いので、事前に切るかタグのない服を選びましょう。
- 肌触りの良い素材を選ぶ: 色々な服の素材を試し、着ていても気にならない素材を知っておきましょう。
味覚過敏・鈍麻
- 無理に食べさせない: 栄養失調などにならない限りは、好きな食べ物を食べても大丈夫です。
- 栄養を考えた食事を用意する: 何の理由もなく急に食べるものが変わることもあるので、食卓には食べられるもの以外に、栄養を考えた食事を用意しておくことが大切です。
嗅覚過敏
- 換気や空気清浄機を使用する: 家の中では、こまめな換気や空気清浄機を使用して、苦手な匂いを減らしましょう。
- マスクを使用する: 外出時は匂い対策としてマスクがあると便利です。
身体感覚過敏・鈍麻
- 寒さや暑さを数字で表す: 子どもとルールを作り、気温に応じて服装を決めましょう。
学校での対応策
家庭よりも対応できることは少ないですが、ASDのお子さんが学校生活を楽しく過ごすためには、学校の協力が欠かせません。
聴覚過敏
- イヤーマフの使用を許可する: 授業中や休み時間などに使えるようにしておくだけで、子どもの安心感が違います。
- 苦手な音を伝えておく: 運動会や文化祭などのときは、大きな音などが発生しやすいので、事前に先生に伝えておくと安心して行事に参加できます。
視覚過敏
- プリントの配慮: プリントが眩しいということもあるので、少しくすんだ色味の紙や、色のついたクリアファイルを使ってプリントを見やすくしておきましょう。
- 色付きメガネ・サングラスの使用を許可する: 学校での使用を許可するだけで、学校生活がかなり過ごしやすくなります。
触覚過敏
- 触覚遊びを無理強いしない: 苦手な感触がある場合は、無理に参加させないようにしましょう。本人が興味を持った場合に取り組ませるようにしましょう。
味覚過敏・鈍麻
- 無理に給食を食べさせない: どれだけ食べても苦手なものは苦手なままです。むしろ、無理に食べさせて嘔吐してしまうと、余計に食べられなくなる可能性もあるので、やめさせましょう。
- お弁当の持参を検討する: 最近では、アレルギー対応でお弁当の持参を許可している学校もあるので、相談してみましょう。
嗅覚過敏
- こまめな換気を心掛ける: 家庭と違って人が多いので、こまめに換気をするようにしましょう。
- マスクの着用: コロナ禍の影響でマスクに抵抗感がなくなってきたので、一番簡単な対応方法かもしれません。
身体感覚過敏・鈍麻
- ケガに注意する: 学校では活発に動き回ることがあります。知らないうちにケガをしていた、とならないように、本人も先生も注意を払いましょう。
子どもの感覚の特異性を理解しよう
今回は、自閉スペクトラム症(ASD)における感覚過敏・鈍麻について、その特徴や具体的な対応策を詳しく解説しました。
ASDのお子さんを持つお母さんにとって、感覚過敏・鈍麻によるお子さんの行動は、理解しがたく、対応に苦慮することも多いでしょう。
ASDのお子さんは、私たちとは異なる感覚の感じ方を持っているということを、まずは理解することが大切です。
そして、その特性に合わせた環境調整やサポートを行うことで、お子さんの生活の質を向上させることができます。
この記事でご紹介した対応策を参考に、ぜひお子さんの様子を観察し、適切なサポートを見つけてみてください。
この記事が、ASDのお子さんを持つお母さんたちにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。
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