学校との連携もバッチリ!元教員が教えるADHDの子の学習サポート
授業中にじっとしていられない、忘れ物が多い、ケアレスミスが多い…。
そんなお子さんの様子を見て、不安を感じていませんか?
ADHDの子どもたちは、その特性ゆえに学習面で苦労することがあります。
しかし、適切なサポートと工夫があれば、十分に能力を発揮し、自信を持って学校生活を送ることができます。
この記事では、ADHDのお子さんの学習をサポートするための具体的な方法や、学習ミスを防ぐための工夫ついて詳しく解説していきます。
ADHDに関する正しい知識を身につけ、お子さんの特性に合わせたサポートをすることで、きっと笑顔が増え、親子で楽しく学習できる日々が待っています。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の基礎知識
ここでは、注意欠如・多動性障害(ADHD)の基本的な特性と、それによって生じる学習上の困難についてご紹介します。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の特性
ADHDには主に3つの特性があります。
不注意
忘れ物や不注意は誰にでもあることですが、ADHDの場合はその程度がひどく、日常生活に支障をきたすことがあります。
注意力の障害であり、やる気がない、だらしないといった問題とは異なります。
- ケアレスミスが多い
- 忘れ物、なくしものが多い
- 約束を守れない、時間に遅れる
- 注意が持続せず、すぐに気が散る
- 仕事や作業を順序立てて行うのが難しい
- 指示に従えず、課題が果たせない
- 片付けが苦手
多動性と衝動性
落ち着きがない、失言が多い、待てないといった症状は、多動性や衝動性によるものです。
男性に多い傾向ですが、大人になるにつれて多動性は減っていきます。
これは、自分の意思で行動を抑えられるようになるためと言われています。
しかし、完全に消失するわけではなく、症状が残る場合も少なくありません。
- 貧乏ゆすり、ペン回し
- 相手の話を遮る
- 何でも引き受ける
- 感情の起伏が激しい
- すぐカッとなり怒りやすい
- 衝動買い
注意欠如・多動性障害(ADHD)の学習上の困難
ADHDの特性である「不注意」「多動性・衝動性」によって、学習において以下のような困難が生じることがあります。
- 授業に集中するのが難しい:先生の話を聞いていても、他のことに気を取られてしまうことがあります。例えば、外の景色や関係のないことを考えてしまうなど。
- 宿題を忘れる:宿題の存在自体を忘れてしまったり、宿題をやろうとしても他のことに気を取られてしまうことがあります。
- やりたい勉強と違うことをしてしまう:例えば、国語の勉強中に算数の問題を解いてしまったり、関係のない遊びを始めてしまったりすることがあります。
ADHDの子どもに効果的な学習方法
ここでは、ADHDのお子さんに効果的な学習方法についてご紹介します。
短時間集中学習
ADHDのお子さんを持つ親御さんにとって、学習における集中力の維持は大きな課題の一つと言えるでしょう。
ADHDの特性として、長時間集中することが難しく、注意が逸れやすい傾向があります。
そのため、従来の「長時間机に向かう」学習スタイルは、ADHDのお子さんにとっては苦痛を伴い、学習効率も低下してしまう可能性があります。
そこでおすすめなのが、「短時間集中学習法」です。
これは、短い時間枠を設定し、集中的に学習を行い、その後こまめな休憩を挟むという方法です。
この方法の利点は、ADHDのお子さんの特性に合わせた学習スタイルである点です。
短い時間枠であれば、集中力を維持しやすく、学習意欲の向上にもつながります。
また、休憩を挟むことで、脳をリフレッシュさせ、次の学習への集中力を高める効果も期待できます。
具体的な学習時間の設定は、お子さんの年齢や集中力によって異なります。
まずは、お子さんがどれくらいの時間集中できるのか、時間を計ってみることが重要です。
例えば、タイマーを使って5分、10分と時間を区切り、集中して学習に取り組める時間を見つけてみましょう。
集中力が途切れてきたら、無理せず休憩を挟むことが大切です。
休憩時間には、軽いストレッチや散歩など、体を動かす活動を取り入れると、脳の活性化にもつながります。
さらに、学習内容を細かく分割することも効果的です。
一つの大きな課題を、小さなステップに分割することで、達成感が得やすく、モチベーションの維持にもつながります。また、学習内容を視覚的に表現することもおすすめです。
カラフルなペンでノートを取ったり、図や表を活用することで、情報を整理しやすく、記憶にも残りやすくなります。
短時間集中学習法は、ADHDのお子さんだけでなく、集中力に課題を抱える多くの人々にとっても有効な学習方法です。ぜひ、お子さんの特性に合わせた学習スタイルを見つけて、学習の成功体験を積み重ねていきましょう。
マンガや映像を利用する
ADHDのお子さんにとって、学習へのモチベーション維持は大きな課題です。
ADHDの特性として、興味のないことへの集中が難しく、退屈さを感じやすい傾向があります。
従来の教科書中心の学習では、文字ばかりで視覚的な刺激が少なく、ADHDのお子さんにとっては苦痛に感じられ、学習意欲の低下に繋がる可能性があります。
そこで、学習効果を高めるための有効な手段として、マンガや映像教材の活用が注目されています。
これらの教材は、視覚的な情報やストーリー性があり、ADHDのお子さんの興味を引きつけ、学習への意欲を高める効果が期待できます。
特に、マンガは、イラストや吹き出しを用いて情報を視覚的に表現しており、文字を読むのが苦手な子でも理解しやすくなっています。また、映像教材は、動きや音声を伴うため、より臨場感があり、記憶にも残りやすいという利点があります。
近年では、中学校の学習内容をマンガ化した教材や、オンラインで視聴できる映像授業など、様々な教材が提供されています。
これらの教材は、教科書の内容を分かりやすく解説しており、自宅学習のサポートとしても活用できます。
例えば、歴史のマンガ教材では、重要な出来事や人物をイラストと共に紹介することで、歴史の流れを視覚的に理解することができます。
また、理科の映像授業では、実験の様子を動画で見ることができるため、より具体的なイメージを持つことができます。
予定表とTODOリストの作成
ADHDのお子さんにとって、学習計画の立案と実行は大きな課題となります。
ADHDの特性として、衝動性があり、興味のあることや楽しいことに気を取られやすい傾向があります。
そのため、計画的に学習を進めることが難しく、気がつけば好きな教科ばかりに時間を費やし、苦手な教科が後回しになってしまうことも少なくありません。
このような状況を改善し、学習効率を高めるために、予定表とTODOリストの作成が非常に有効です。
予定表は、1日または1週間の学習計画を視覚的に把握するためのツールです。
ADHDのお子さんは、抽象的な概念を理解することが苦手な場合があるため、視覚的な情報で学習計画を明確にすることが重要です。
予定表には、各教科の学習時間や休憩時間、宿題の時間などを具体的に書き込みます。
色分けしたり、イラストを添えたりするなど、視覚的に工夫することで、より分かりやすく、実行しやすくなります。
TODOリストは、今日または今週中にやるべき具体的なタスクを書き出すためのツールです。
ADHDのお子さんは、複数のタスクを同時に管理することが苦手な場合があるため、TODOリストを活用することで、やるべきことを明確にし、優先順位をつけて取り組むことができます。TODOリストには、宿題やテスト範囲、復習したい内容などを書き出します。
タスクを完了したらチェックマークをつけたり、線を引いたりすることで、達成感を味わうことができ、モチベーションの維持にも繋がります。
学習環境を整える
ADHDのお子さんにとって、集中力を維持し、効率的に学習を進めるためには、適切な学習環境を整えることが非常に重要です。
ADHDの特性として、注意散漫になりやすく、周囲の刺激に気を取られやすい傾向があります。
そのため、学習環境が整っていないと、集中力が途切れやすく、学習効率が低下してしまう可能性があります。
まず、学習机の上や周囲には、勉強に関係のないものを置かないようにしましょう。
おもちゃやゲーム、スマートフォンなどは、ADHDのお子さんにとって大きな誘惑となり、注意を逸らす原因となります。
これらのものは、視界に入らない場所に片付けるか、別の部屋に移動させるなど、手の届かない場所に置くようにしましょう。
また、部屋の装飾にも注意が必要です。
ポスターや写真、飾り物などは、視覚的な刺激となり、ADHDのお子さんの注意を引きつけてしまう可能性があります。学習中は、これらの装飾品を一時的に取り外すか、布などで覆うなどして、視界に入らないように工夫しましょう。
適度に身体を動かす
ADHDのお子さんにとって、長時間じっと座って学習を続けることは大きな挑戦となります。
ADHDの特性として、多動性があり、体を動かす衝動を抑えにくい傾向があります。
そのため、じっと座っていることを強制される学習時間は、苦痛に感じられ、集中力や学習意欲の低下に繋がる可能性があります。
そこで、ADHDのお子さんの学習において、適度な運動を取り入れることが非常に重要となります。
運動は、ADHDの症状改善に役立つだけでなく、学習効率を高める効果も期待できます。
まず、運動は、ADHDのお子さんの過剰なエネルギーを発散させる効果があります。
体を動かすことで、落ち着きのなさや衝動性を軽減し、学習への集中力を高めることができます。
また、運動は、脳内の神経伝達物質の分泌を促進し、気分転換やストレス軽減にも繋がります。
学習中の休憩時間には、積極的に体を動かす活動を取り入れましょう。
例えば、部屋の中を歩き回ったり、軽いストレッチやスクワットをしたりするだけでも、気分転換になり、集中力を回復させることができます。また、縄跳びやトランポリンなど、リズム感のある運動もおすすめです。
さらに、学習前に軽い運動を取り入れることも効果的です。
ウォーキングやジョギング、サイクリングなど、少し汗をかく程度の有酸素運動を行うことで、脳の活性化を促し、学習への準備を整えることができます。
ADHDの学習のときに役に立つアイテム
ここでは、先ほどご紹介した学習方法を助けてくれるアイテムをご紹介します。
短時間集中学習
スマホやタブレットにタイマーアプリをダウンロードしておきましょう。
さまざまなタイマーアプリがありますが、勉強時間と休憩時間を交互に設定できるアプリがおすすめです。
タイマーに合わせて、休憩と集中を繰り返しながら勉強を進めましょう。
個人的には『集中|勉強・仕事のモチベーション』というアプリがおすすめです。
マンガや映像を利用する
まずは勉強に興味を持つきっかけとして、マンガから入るのもおすすめです。
個人的には『COMIC×STUDYシリーズ』がおすすめです。
自分一人で勉強するのが難しい場合は、映像授業を受けるのも一つの方法です。
『スタディサプリ』などが有名で、手軽に始められるので試してみるのも良いでしょう。
予定表とTODOリストの作成
予定表やTODOリストは、手帳などに手書きで作るか、スマホやタブレットで電子管理するのがおすすめです。
手帳を使う場合は、大きすぎず小さすぎないB6サイズで、1週間の予定が見やすいウィークリータイプがおすすめです。
電子管理する場合は、『Googleカレンダー』と『Google ToDo リスト』がおすすめです。
どちらも、Googleアカウントがあればスマホやパソコン、タブレットから操作できるので、保護者の方がお子さんの予定を追加・変更することもできて便利です。
学習環境を整える
とにかく視界に余計なものが入らないようにすることが大切です。
勉強するたびに部屋のものを動かすのは大変なので、仕切り板を用意するのがおすすめです。
個人的には、『リビング学習もっと集中!新・どこでも自習室』がおすすめです。
適度に身体を動かす
ADHDのお子さんにとって、体を動かすことは結果的に集中力を高める効果があります。
しかし、体を動かすとなるとどうしても勉強が中断してしまいますよね。
そんな悩みを解決してくれるのが「バランスボール」です。
バランスボールを椅子代わりにすることで、体を動かしながら勉強に集中することができます。
学校との連携
自宅と学校では対応できることが異なりますが、学校でも配慮してもらえることはたくさんあります。
ぜひ先生に相談してみましょう。
ここでは、学校で取り組んでもらえる学習支援の方法をご紹介します。
学習環境の配慮
学校で最も大切で取り組みやすい支援方法が学習環境の整備です。
すべてを実現できるわけではありませんが、相談することで、学校の先生も配慮してくれるようになります。
座席を一番前の真ん中にする
ADHDのお子さんは、周囲の刺激に注意が向きやすい傾向があります。
そのため、一番後ろの席や窓側の席だと、授業よりも他のことに気を取られてしまうことがあります。
授業に集中してもらうためには、一番前の真ん中の席が良いでしょう。
掲示物を少なくする
ADHDのお子さんは注意が逸れやすいので、教室の前方は掲示物を少なくするのがおすすめです。
これはADHDのお子さんだけでなく、他のお子さんにとっても有効な配慮なので、取り入れやすいでしょう。
バランスボールを利用する
大人数の教室では難しいかもしれませんが、少人数の教室や特定の授業のときは、バランスボールの使用を検討してもらえるかもしれません。
バランスボールが難しい場合は、席を立ってなどをさせてもらえるように相談してみるのも良いでしょう。
学習内容・指導の配慮
学習内容についても相談することで、配慮してもらえることがあります。
元教員目線で、配慮できそうなことをご紹介します。
問題量の配慮
ADHDのお子さんは集中できる時間が短いので、問題の量を減らすことが効果的な配慮です。
一度に取り組む量を減らし、休憩時間を増やすことで、集中して取り組める時間を増やすことが大切です。
指示を出すときは口頭と板書
ADHDのお子さんは、耳からの情報に弱かったり、ワーキングメモリが低いため、一度に処理できる情報が少ないことがあります。
そのため、口頭で伝えた指示を忘れてしまうことがあります。
それを防ぐために、口頭だけでなく黒板にも課題の内容や問題集のページを書いておくのが良い方法です。
じっと勉強できないAさん
ここでは、私が実際に担任として関わったAさんのケースをご紹介します。
勉強に対して真面目で勤勉なAさん
Aさんは、勉強熱心で学年でも上位に入るほど優秀な生徒でした。
しかし、ADHDの傾向があり、授業中は貧乏ゆすりが激しかったり、休み時間になるとチャイムが鳴るギリギリまで廊下や教室内をウロウロしたりしていました。
中学3年生になり受験が近づくと、Aさんはこれまで以上に勉強に集中しなければなりませんでした。
しかし、以前にも増して貧乏ゆすりが激しくなり、授業を聞かずにぼーっとしている時間が長くなってしまいました。
そこで、Aさんと相談した結果、授業中や問題を解いている間は静かに座っているけれど、問題が解き終わって他の友達が解き終わるのを待っている間は、教室内を静かにウロウロしても良いというルールを作りました。
もちろん、同じクラスの友達にも相談し、周りのみんながOKしてくれたおかげで、このような対応を取ることができました。
この取り組みのおかげか、立ち歩いても良いという安心感からか、Aさんの貧乏ゆすりは少しずつ減り、勉強に集中できる時間も増えていきました。
最初は少しでも時間があれば立ち歩いていましたが、最終的には1回の授業で1回立ち歩くかどうかくらいまで減っていました。
障害名ではなくその子に合った支援
今回は、ADHDの特性を持つお子さんの学習方法や支援の方法について解説し、ご紹介しました。
Aさんのように、お子さんに合った支援方法を見つけることができれば、無理なく健やかに成長できるはずです。
ご家庭だけでなく、学校とも連携しながら、お子さんの成長をサポートしていきましょう。
今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。
気になることや質問があれば、X(旧Twitter)のDMや公式LINE、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。