【発達障害ってどんな個性?】元教員が教える分かりやすい解説

最近、「発達障害」という言葉が広く知られるようになり、書店にも関連書籍が並ぶようになりました。

芸能人が自身の発達障害を公表するケースも増え、カジュアルな理解が広がる一方で、誤解も生まれています。

今回、元特別支援学校教員の「はなまる先生」が、正しい知識と、実際に教えた生徒たちのリアルな体験談を紹介します。

目次

発達障害の基礎知識

近年、「発達障害」という言葉が広く知られるようになりましたが、医療機関では「神経発達症」という表現も用いられます。

いずれは「神経発達症」というのが主流になってくると思いますが、今回は伝わりやすい「発達障害」という言葉を使用させていただきます。

また、本記事ではより正確な理解を深めるために、専門用語を用いて解説します。

発達障害とは?

実は、発達障害は数種類の障害の総称です

一括りにされがちですが大きく分けて3種類あり、それぞれで特性などが大きく異なります。

発達障害には「重複」することもあれば、特性に「強弱」もあることを理解しておくことが重要です。

今回は、3つの種類とその特性について、わかりやすく解説していきます

発達障害の種類

発達障害には、チック症、コミュニケーション症、知的発達症、発達性協調運動症など様々な種類がありますが、今回は代表的な3種類である自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動性障害(ADHD)学習障害(LD)について詳しく説明していきます。

自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症の主な特性はこの3つです。

臨機応変な対人関係が苦手

  • 集団に合わせて行動するのが苦手
  • 暗黙のルールや相手の気持ちがわからない
  • 場の空気をよむのが難しい

学校での集団活動では、一人遊びが目立ちます。

公共の場でのマナー理解が困難な場合があり、相手への配慮に欠けた言動が見られることもあります。

こだわりが強い

  • ものの配置や作業の手順などが一緒でないと不安
  • 特定のものごとに強い興味がある

強いこだわりを持つことが多く、自分にとって安心できる行動や物の配置にこだわりを見せます。

興味の幅が狭く、特定のことに強い関心を持つ傾向があります。

特定の感覚が極端に敏感あるいは鈍感

  • 大きい音、まぶしい光が苦手
  • ケガをしても気づかない、真冬なのに寒がらない

人混みの喧騒や教室の照明など、特定の感覚刺激に過敏

真冬でも半袖半ズボンで過ごすなど、暑さや寒さに対する感覚が鈍いこともあります。

注意欠如・多動性障害(ADHD)

注意欠如・多動性障害の主な特性はこの2つ

不注意

  • うっかりミスや忘れ物が多い
  • 集中を持続することが難しい

提出物を家に忘れたり、机に置いたまま帰ったりなど、不注意による忘れ物持ち物がないことが頻繁に見られます。

集中が続かず、人の話を最後まで聞かないこともあります。

多動性・衝動性

  • じっとしているのが苦手
  • 思いつきですぐに行動してしまう

椅子に座っていてもそわそわしてしまう。

授業中に気になるものがあると席を立って見に行ってしまう

学習障害(LD)

知的発達に遅れはないが、「読み」「書き」「計算」のうちいずれかもしくは複数が苦手

読字障害(ディスレクシア)

  • 文字を読むのが苦手で文章を読むのが極端に遅い
  • 学習障害の80〜90%はこの障害と言われている

会話や計算には特に問題ない場合が多いですが、文章を読むことだけが苦手なケースがあります。

文章を読めないことで、他の学習にも影響が出てしまうことがあります。

書字障害(ディスグラフィア)

  • ひらがながうまく書けない
  • 漢字を覚えるのが苦手

文字を形として認識することが難しい。

漢字だけでなく英単語の綴りも苦手な人が多いです。

算数障害(ディスカリキュア)

  • 知的発達に遅れはないが、計算や文章問題が極端に苦手
  • 4〜6割は読字障害を合併している

数量の処理に困難があり、計算単位時間の把握が苦手です。

数量の処理に困難があり、計算や単位、時間の把握が苦手。

言語能力やワーキングメモリなどの認知機能も影響していると考えられています。

発達障害の原因と診断

ここでは簡単に発達障害の原因と診断方法について説明していきます。

発達障害の原因

発達障害は、脳機能の発達に違いがある先天的な障害であり、育児の影響によるものではありません。

生まれつき、特定の能力が弱かったり、逆に強かったりするため、周囲の人と同じように成長するのが難しい場合があります。

脳機能の障害であることから、医師による診断で薬物療法が有効な場合もあります。

発達障害の診断

発達障害の診断は、医師または医療機関のみが行うことができます。

インターネット上にある発達障害診断テストは、あくまでも参考情報であり、診断に代わるものではありません

診断は、小児科、児童精神科、小児神経科、発達外来、大学病院、総合病院などの医療機関で受けることができます。

元教員が教える発達障害の子どもの学習サポート

発達障害のある子どもは見た目だけでは障害があると判断しにくく、ただ勉強が苦手な子と見られがちです。

また、発達障害があると診断されても、他の子どもたちと見た目には変わらないため、理解されにくく、学習のサポートが不足しがちです。

個に応じた指導

障害によって細かい指導方法は異なりますが、基本的には障害の有無に関わらず、子ども一人ひとりに応じた指導が大切です。

特別支援学校では、個々に応じた指導という考え方が基本ですが、地域の学校ではなかなか理解されにくく、実践が難しいとされています。

子どもの能力を把握する

発達障害のある子どもを指導するときに一番大切にしていることは、その子の理解力や学習能力を注意深く観察することです。

たとえば、計算問題が得意でも文章問題になると急にできなくなったり、少し応用の計算問題になると計算量が増えて処理しきれなくなることがあります。

そのため、細かいところにまで気を配って見てあげる必要があります。

無理な学習はしない

子どもによっては、どれだけ勉強しても身につかないことがあります。

周りの子に比べて全然できていないので、せめて簡単な問題だけでも無理をさせ続けると、二次障害でうつ病や不安障害などになってしまいます。

計算問題が苦手な子どもには、電卓を使用して学習しても良いと思います。

算数や数学の学習には、論理的思考などの考え方を身につけるという一面もあります。

もちろん計算能力も大切ですが、そこにばかりこだわりすぎて、成長できる他の分野の可能性を潰すのは本末転倒だと思います。

配慮と支援で一歩踏み出せた

発達障害は見た目や普段の生活ではわかりにくく、誤解されやすいため理解されないことが多いです。

そのような環境が続くと、頑張ることを諦める子どもが増えてしまいます。

今回は、学校に対して諦めていたAさんが、生徒のことを理解して正しい支援と配慮を受けることで再び頑張れるようになった話を紹介します。

授業中は鉛筆を持たない

Aさんにとって、漢字を書くことは大きな壁でした。
中学生になっても「牛」という簡単な感じすら上手く書けません。

小学生の頃から何度も注意を受け、練習を重ねても思うように上達せず、次第に書くことに抵抗を感じるようになりました。

「書いても無駄」という思いから、授業中に鉛筆すら持たなくなったAさん。

勉強への意欲が低下し、不登校へと繋がっていくのは必然だったのかもしれません。

しかし、Aさんの可能性は決してそれだけではありませんでした。
算数や数学に関しては平均以上の能力を持ち、学ぶ意欲も十分にあったのです。

Aさんの状況を理解した学校側は、タブレットでのノート記入を許可するという合理的配慮を行いました。

この配慮が転機となり、Aさんは数学以外の授業にも少しずつ集中し始め、英語や理科の授業でも鉛筆を持つようになりました。

文字を書くことへの抵抗は依然としてありましたが、配布されたプリントの選択問題だけ解くなど、少しずつ前向きな変化が見られました。

この事例から、私は発達障害のある子どもに対して、適切な配慮や学習方法を工夫することで、学習意欲を高め、成長を促すことができると思っています。

周囲の理解とサポートが大切

障害の有無に関わらず、すべての子どもは周囲からのサポートが必要です。

しかし、発達障害の子どもにとって、そのサポートと配慮はより一層重要となります。

学校でのサポート

子どもにとって、自宅の次に長い時間を過ごす学校は、成長と発達において非常に重要な役割を果たします。

しかし、発達障害のお子様が十分なサポートを受けられない学校生活は、大きな負担となってしまう可能性があります。

発達障害の特徴や、学校生活で困っていることを担任の先生に相談しておきましょう。

必要に応じて、通級指導教室や特別支援学級の利用も検討しましょう。

家庭でのサポート

子どもの特性をよく理解して、その子に合った育て方をしてあげてください。

特性を理解するとは、その子どもの「好き」「嫌い」「得意」「苦手」を知ることです。

そして、得意なことは伸ばし、苦手なことは無理をさせないことです。

苦手なことをそのままでいいのかと思われるかもしれませんが、発達障害のある子どもは理解されにくく、無理をさせられることが多いです。

その結果、苦しんで自信を失い、二次障害としてうつ病や不安障害、過剰適応などになってしまうケースが多いです。

そうならないように、子どものことをよく理解し、「得意」や「好き」なことを頑張らせてあげる方が大切だと思います。

安定している子ども

発達障害の子どもの中には、穏やかで安定した様子を見せる子もいれば、常に不安を抱え、心配事が絶えない子もいます。

私の経験から、この違いは保護者の子どもへの接し方に大きく影響していると感じています。

子どものことをよく観察し、理解しようと努め、その子にとって最適な環境を築いてあげる
そうした愛情あふれる接し方を受けた子どもは、自分に自信を持ち、明るく前向きな生徒に成長する傾向があります。

一方、子どもの進路や進学、学習面ばかりにこだわり、その現状や特性を理解しようとしない
そうした接し方を受けた子どもは、自分に自信がなく、不安を抱えやすい生徒に育ってしまうケースが多いようです。

発達障害の子どもにとって、一番大切なのは「ありのままの自分を受け入れてもらうこと」です。

保護者が子どもの個性を尊重し、愛情を注ぎながら、その子に合ったサポートをしていく
それが、発達障害の子どもが安定し、自信を持って成長していくために必要なことではないでしょうか。

発達障害に関する情報と支援

近年、発達障害という言葉が広く認知され、情報も以前より容易に手に入るようになりました。

しかし、専門家によるエビデンスに基づいたものと、そうでないものが混在しているので、情報を手に入れるときは気をつけましょう。

地域の療育機関や支援団体

地域によって療育機関の数や種類は異なりますが、各市町村には療育機関があるはずです。

例えば、「◯◯市 療育機関」と検索してみましょう。

診断を受けた医療機関からの紹介も一つの方法です。

また、同じ発達障害で悩む人たちのためのコミュニティや支援団体もありますので、興味のある方は検索してみてください。意外な情報が見つかるかもしれません。

特別支援級や特別支援学校

一番身近なのが、学校内の特別支援級が挙げられます。

特別支援級の先生は、地域の学校で活躍する教員ですが、特別支援学校の免許を持っていないこともあります。
それでも、他の教育機関との連携を図りながら、相談にのってくれることもあります。

さらに、特別支援学校は個人的にオススメです。
その学校の先生たちは、豊富な経験と知識を持っており、さまざまな相談に乗ってくれます。

特別支援学校には、地域の学校を巡回して助言や指導を行う特別支援コーディネーターもいます。

特別支援学校の特別支援コーディネーターに助言や指導をお願いしたい場合は、担任の先生や特別支援学級の先生に相談してみましょう。

必要な情報やサポートを提供してくれるはずです。

発達障害に関する書籍

書籍は、手軽で手に入れやすい情報源です。

特に発達障害に関する書籍は、医師や専門家が著者として多くいます。
彼らの専門知識に基づいた情報は、信頼性が高く、正しい情報を得る上で頼りになります。

一方で、発達障害を経験した人が書いた書籍もあります。

しかし、発達障害は個人差が大きく、同じ障害でも症状の程度や特性が異なるため、あまり参考にならないことがあります。

情報の信頼性を重視するなら、医師が執筆した書籍がオススメです。

オススメ書籍

  • 【発達障害「グレーゾーン」】著 岡田尊司
  • 【発達障害の人には世界がどう見えるのか】著 井手正和
  • 【マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある】著 本田秀夫 イラスト フクチマミ

書先生によって考え方なども違うので、自分に合った書籍をみつけて、参考にするのがオススメです。

子どもを理解し、その子に合った支援を

何度も書かせてもらいましたが、発達障害は見た目や生活などでは判断されにくく、理解もされにくい障害です。

そのため、正しい配慮や支援がされにくいという現状もあります。

まずは、周囲の大人が発達障害への理解を深め、その子どもに合ったサポートしていくことが、大切だと思います。

今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

気になることや質問があれば、X(旧Twitter)のDMや公式LINE、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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