先生も親も納得!合理的配慮で、発達障害の子どもを支える

2024年4月、障害者差別解消法の改正により、私立の学校や企業にも合理的配慮が義務付けられました。

近年、「合理的配慮」という言葉が注目を集めていますが、具体的にどのようなものなのでしょうか?

今回は、発達障害の子どもが安心して学校生活を送れるために、学校における合理的配慮について解説します。

実際にどのような配慮が行われているのか、元教員の経験から具体的な事例もご紹介します。

目次

合理的配慮とは?

合理的配慮とはどのような目的で制定・施行されたのか、教育における合理的配慮の定め方について解説します。

障害者差別解消法と「合理的配慮」

2013年に制定された「障害者差別解消法」(2016年4月施行)は、社会におけるあらゆる障壁(事物、制度、慣行、観念など)の除去と「合理的配慮」を定めています。

この法律が制定された当初は、「合理的配慮」は国の行政機関・地方公共団体が法的義務で、民間事業者は努力義務となっていました。しかし、2024年4月1日の改正により、民間事業者も法的義務となりました。

障害者差別を無くすための「合理的配慮」

障害のある人から申出があった場合、負担が重すぎない範囲で、障害者の求めに応じて合理的配慮をする必要があります

近年、「合理的配慮」という言葉だけが先行し、何でもかんでも配慮しなければならないという考え方が見られますが、本来の目的は障害者差別をなくすことです。

合理的配慮を学ぶときによく見る画像

ここで、特別支援教育でよく見る「合理的配慮」のわかりやすい画像をご紹介します。

野球を見ようとしている3人がいます。
この状況では、一番右の人しか野球を見ることができません

全員が見れるように配慮すると次の画像のようになります。

この画像のように人によって配慮はバラバラで、全く配慮を受けていない人もいれば、真ん中の人は1箱だけ高くしてもらっていて、左の人は箱を2つ用意してもらっています。

このような配慮をすることにより、全員が同じ条件で試合を観ることができます

これが「合理的配慮」です。

また、この方法以外にできる合理的配慮があります。

このように、環境を変えるという合理的配慮をすることで、誰もが困ることなく試合を楽しむことができます。

先ほどまでのブロックは、社会的障壁(バリア)と言えるでしょう。

そして、この社会的障壁(バリア)を無くすことで、誰もが平等に楽しむことができるのです。

学校における「合理的配慮」

文部科学省では

「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している

文部科学省

学校の中で「合理的配慮」を考える上で、大きく3つの観点があります。

  1. 施設・設備
  2. 教育内容・方法・評価
  3. 支援体制

それぞれについて詳しく解説していきます。

施設・設備

まず考えられるのが、校内環境のバリアフリー化です。

視覚・聴覚に障害のあるや肢体不自由の子どもが、安全かつ円滑に学校生活を送れるよう、以下のような設備の整備が求められます。

  • スロープや手すり: 移動時の不安を軽減し、安全な移動をサポートします。
  • 誘導ブロック: 視覚障害のある子どもが、校内を安心して歩行できるよう、足元を導きます。
  • エレベーター: 車いすやベビーカーの利用者も、スムーズに校舎内を移動できます。
  • 多機能トイレ: オストメイトや人工関節を持つ子どもでも、安心してトイレを利用できます。
  • 校内の段差の解消: 転倒などのリスクを減らし、安全な移動を可能にします。

これらの整備に加え、学校行事への参加を促す環境づくりも重要です。

例えば、手話通訳や字幕の提供、音声を文字に変換する機器の設置などが考えられます。

教育内容・方法・評価

障害のある子どもが学校で学ぶためには、その障害特性やニーズに応じた学習内容の変更や調整、多様な学習方法の保障が不可欠です。

LD、ADHD、高機能自閉症など、発達障害の子どもにとっても、それぞれが抱える困難に寄り添った学習方法を取り入れることが重要です。

2017年に改定された新学習指導要領では、「各教科等」において、「障害のある児童(生徒)などについては、学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと」と明記されました。

これは、個々の子どもが学びの過程で経験する困難さに応じた指導上の配慮や支援が、「どの教科」「どの授業」でもますます重要になっていることを示しています。

さらに、学習の成果を適切に評価するためには、評価方法の多様化も「合理的配慮」の重要なポイントとなります。

一人ひとりのニーズに合わせて教材や授業の進め方、評価方法を工夫することこそが、「合理的配慮」の真髄と言えるでしょう。

支援体制

各学校には校内委員会が組織され、特別支援教育コーディネーターが中心となって、子ども一人ひとりに必要な支援を検討・実施しています。

特別支援学校や関係機関との連携も強化され、必要に応じて特別支援教育支援員を配置したり、巡回相談を通じて学校と家庭の共通理解を図る取り組みも進められています。

今後は、こうした連携を含めた学校全体としての指導・支援体制の充実が、「合理的配慮」の重要な観点の一つとなります。

合理的配慮の具体例

ここでは、社会全体と学校における合理的配慮の取り組み例、そして私が実際に見たことがある例を紹介していきます。

社会生活における具体例

ここでは、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害を例として、具体的な合理的配慮をご紹介します。

車椅子の人が飲食店に入店

車椅子の人が飲食店に入店し、車椅子に乗ったまま着席したいことを伝えました。

そうすると店員さんがテーブル席の椅子をどかして、車椅子のまま着席できるスペースを確保しました。

聴覚障害の人が講演会に参加

講演会に参加した聴覚障害者の方が、聞こえにくいため内容がわからないと困っていました。

そこで、手話通訳者が講演者の横で通訳を行ったり、プロジェクターを使って話している内容を文字起こしして映したりすることで、内容を理解できるようにしました。

視覚障害の人が買い物をしにスーパーに入店

ほしい商品があるけれど、売り場がどこにあるのかわからないという視覚障害者の方がいました。

そのために、店員さんがほしい商品のある売り場まで誘導しました。

学校における具体例

ここでは、先ほどの社会生活における具体例とは異なり、発達障害や学習障害の子どもに対する学校での具体的な配慮例を紹介します。

注意集中が困難で見通しが持ちにくい子

発達障害の中でも、集中力が続かず、見通しが難しいと感じる子どもは少なくありません。

このような子どもへの学習支援として、以下のような取り組みがあります。

  • 集中力が続かない場合:
    • プリント1枚の問題数を減らして、取り組みやすい量に調整する。
    • 活動の合間に短い休憩時間を設け、集中力をリフレッシュさせる。
  • 見通しが持ちにくく不安を感じやすい場合:
    • 授業の冒頭で活動の流れを説明し、学習内容を明確にする。

これらの支援を行うことで、子どもたちは学習への不安を軽減し、意欲的に取り組むことができるようになります。

「書く」ことが困難な生徒

学習障害(LD)で「書く」ことが困難なため、授業のペースに追いつけない生徒に対して、以下のような学習支援を行うことができます。

  • 板書を写すのに時間がかかる場合:
    • 写す負担を軽減するために、事前にプリントを用意する。
  • その他:
    • パソコンの使用を認め、データで板書を写すことを許可する。
    • 音声入力ソフトを活用し、音声で情報を記録する。

これらの支援を行うことで、生徒は板書を写すことに時間を取られず、授業内容に集中することができます。

私が実際に見た具体的な支援例

ここでは、私が実際に指導した発達障害の子どもへの支援例を2つ紹介します。

そわそわして集中できない

Aさんは注意欠如・多動性障害(ADHD)の特性があり、授業中に座っている時間が長くなると貧乏ゆすりが激しくなり、集中力が途切れてしまう傾向がありました。

そこで、本人やクラスメイトと相談し、以下の条件で教室内を歩き回れるようにしました。

  • 先生の説明中ではない
  • 問題が解き終わって時間が余っている
  • 周りの友だちに迷惑をかけない

この配慮により、Aさんは1〜2分歩くだけで気持ちが落ち着き、以前よりも集中して勉強に取り組めるようになりました。

計算が苦手で学習意欲が低下していた

Bさんは境界知能で、全体的に学習に苦労していました。

特に数学に関しては、九九さえも難しく、学習意欲がどんどん低下していました。

そこで、九九表や電卓の使用を許可することで、学習に取り組みやすくしました。

この支援により、Bさんは図形やグラフなどの問題にも取り組みやすくなり、勉強への苦手意識が徐々に減り、前向きに取り組めるようになりました。

学校で合理的配慮を受けるには

これまで、発達障害の子どもに対する合理的配慮について説明してきました。

ここでは、実際に学校で合理的配慮を受けるために必要なステップについて解説します。

困っていることを確認

まずは、子どもがどのようなことに困っているのかを確認しましょう。

  • 学校生活や授業の中で困っていることを具体的に聞いてみましょう。
  • 言語化するのが難しい場合は、「困っていることがあるみたいなので、様子を見てください」と担任の先生に伝えましょう。
  • 本人もわからない場合は、スクールカウンセラーなどに相談してみましょう。

子ども本人が困っていることがわからないという場合は、学校の先生やスクールカウンセラーなどの専門家を利用すれば、子どもから話を聞き出して、子どもの頭の中にあることを言語化する手伝いをしてくれるので、上手に利用しましょう。

まずは担任の先生に相談

子どもの困っていることがわかったら、まずは担任の先生に相談しましょう。

具体的な配慮してほしいことがあれば、そのまま伝えてみましょう。

配慮がわからない場合は、担任の先生と相談して方法を考えていきましょう。

特別支援教育コーディネーターに相談

担任の先生に相談しても解決しない場合は、特別支援教育コーディネーターに相談してみましょう。

特別支援教育コーディネーターは、各学校に配置されており、特別支援教育の充実を進めています。

関係機関との連携も進めてくれるので、どの先生が特別支援教育コーディネーターなのか確認しておきましょう。

「合理的配慮」には時間がかかる

すぐにできる配慮もあれば、すぐにできない配慮もあります。

小学校は担任が全ての授業を担当しますが、中学校は教科担当制なので、各教科の先生への確認も必要です。

早くても1週間、遅ければ1ヶ月ほどかかる場合もあるので、理解しておきましょう。

「合理的配慮」は対話が大切

「合理的配慮」は義務ですが、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とされています。

「合理的配慮」をしたくても、人員配置や予算などの関係で全ての配慮ができない場合があります。

学校と保護者が話し合い、できる範囲で配慮内容を検討することが重要です。

学校との関係を良好にしておくことで、子どもの学校生活や進路も良い方向に進みやすくなります。

想いが強すぎてクレームにならないよう注意しましょう。

「合理的配慮」で充実した生活を

「合理的配慮」という考え方は、発達障害や学習障害の子どもへの理解がまだ十分とは言えない現状において、特に重要です。

肢体不自由や視覚・聴覚障害と異なり、発達障害や学習障害は目に見えないため、周囲の人にとって理解しにくく適切な支援が得られにくいという課題があります。

しかし、「合理的配慮」は、発達障害や学習障害の子どもが社会参加や学習を円滑に進めるために必要なものであり、子どもの成長や心理的不安の軽減にもつながります。

学校や家庭においては、子ども一人ひとりのニーズを理解し、対話を大切にしながら、適切な「合理的配慮」を検討していくことが重要です。

今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

気になることや質問があれば、X(旧Twitter)のDMや公式LINE、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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