【発達障害の子どもの成長をサポート】通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校、自分に合った環境を見つけるヒント
お子様が発達障害と診断された場合、今後の学校生活をどのようにサポートしていくべきか、多くの親御様は悩まれることと思います。
発達障害のある子どもにとって、自分に合った学習環境を整えることは、学習効果を高め、自信と意欲を育むために非常に重要です。
本記事では、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校の概要と、それぞれの実態と課題を元教員の視点から解説します。
通級指導教室
「通級による指導」が制度化されたのは、比較的に新しいです。
そのため、まだ通級指導教室の設置数は少なく、不足している状態です。
「通級による指導」の制度化
旧文部省・調査研究協力者会議の『通級による指導に関する充実化方策について(審議のまとめ)』(1992年)を受けて、学校教育法施行令の改正後、正式に制度化されたのが「通級による指導」である(1993年)。
制度化された当初は対象となる児童生徒は、難聴児や言語障害児を対象とされていた。
その後、発達障害者支援法の制定もあり、「言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥・多動性障害」に該当する児童生徒が対象となった(2006年3月31日)。
対象になる児童生徒は?
通級による指導の対象となるのは、
- 言語障害者
- 自閉症者
- 情緒障害者
- 弱視者
- 難聴者
- 学習障害者
- 注意欠陥多動性障害者
- 肢体不自由者
- 病弱者及び身体虚弱者
の児童生徒であり、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のものになります。
なお、通級による指導のいずれにおいて教育を行うべきかの判断については、障害の状態、教育的ニーズ、学校や地
域の状況や専門家の意見等を総合的に勘案し、本人及び保護者の意向を最大限尊重して市区町村教育委員会が判断します。
その他、要日本語指導児においても適応されることもある。
指導内容と指導時間
指導内容 | 標準年間指導時間 |
---|---|
自立活動及び教科指導の補充 | 年間35〜280単位時間(週1〜8単位時間)ただしLD・ADHDは年間10〜280単位時間(月1〜週8単位時間程度) |
指導内容は、基本的には障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服するため、特別支援学校学習指導要領の「自立活動」に相当する指導を行います。
また、LD・ADHDの児童生徒への指導は学習内容の習熟の程度に応じた指導の工夫等により対応することが適切である場合も多くあります。
実施形態について
実施形態として、
- 児童生徒が在籍する学校において指導を受ける「自校通級」
- 他の学校に通級し、指導を受ける「他校通級」
- 通級による指導の担当教師が該当する児童生徒のいる学校に赴き、又は複数の学校を巡回して指導を行う「巡回指導」
があります。
児童生徒の障害に応じた特別の指導を、教育課程に加え、又はその一部に替えることができるものとされています。
「通級による指導」の課題
- 通級指導教室の整備
- 保護者や児童生徒の負担
- 知的障害児への対応
通級指導教室の整備
「通級による指導」は、特別な支援を必要とする子どもたちが、通常の学級に在籍しながら、個別の指導を受けられる制度です。しかし、その指導の場である通級指導教室の整備は、十分とは言えません。
支援を必要とする子どもたちの数は年々増加していますが、通級指導教室の設置数は追いついていないのが現状です。
保護者や児童生徒の負担
通級指導教室の不足により、多くの生徒が指導を受けるために他の学校に通う必要が生じています。
これは、通常の授業に加えて通級指導を受けることになるため、保護者や児童生徒にとって大きな負担となっています。時間的な制約だけでなく、移動の負担や精神的なストレスも懸念されます。
知的障害児への対応
現在の制度では、知的障害のある子どもたちは「通級による指導」の対象外とされています。
そのため、言語指導や教科の補習などを希望しても、通級指導教室で支援を受けることができません。
知的障害のある子どもたちにも、個々のニーズに合わせた適切な支援を提供することが求められています。
特別支援学級
特別支援学級は、発達障害など特別な支援を必要とする児童生徒が、少人数制のクラスで教育を受ける場です。
多くの特別支援学級は、学校内に設置されており、通常学級との交流や共同学習も積極的に行われています。
対象になる児童生徒は?
特別支援学級の対象となるのは
- 知的障害者
- 肢体不自由者
- 病弱者及び身体虚弱者
- 弱視者
- 難聴者
- 言語障害者
- 自閉症者
- 情緒障害者
の児童生徒であり、障害による学習上又は生活上の困難を克服するためとあります。
障害のある児童生徒の学びの場は、障害の状態、教育的ニーズ、学校や地域の状況や専門家の意見等を総合的に勘案し、本人及び保護者の意向を最大限尊重して市区町村教育委員会が判断します。
なお、障害のない児童生徒については、保護者等の意向にかかわらず、通常の学級に在籍して学ぶこととなります。
指導内容と指導時間
指導内容 | 指導時間 |
---|---|
子どもの実態に即した特別な教育課程 自立活動や教科学習 | 週の半分以上 |
特別支援学級の教育課程は、子どもの実態に即して、特別な教育課程によることができるとされています。
そのため、その子どもに合った教育課程(自立活動などを多くするなど)を作ることができます。
また、検定教科書の使用が適当でないときは、学校設置者(市町村教育委員会)の定めるところにより、適切な教科用図書を使用できることになっている。
2022年の文部科学省の通知により、特別支援学級での学習は週の半分以上でなくてはならないとされています。
実施形態について
- 一学級最大8人
- 無学年制の学級
- 交流学習や共同学習
最大8人で一学級とされているため、少人数での教育指導ができる。
また、原学級との交流学習や共同学習などもすることができる。
特別支援学級の課題
- 特別支援学校の教員免許状の所持
- 特別支援学級での指導時間
- 特別なニーズを持つ児童生徒への対応
特別支援学校の教員免許状の所持
特別支援学級の担任になる教師は、特別支援学校の教員免許状の所持を求められていないので、ときには特別支援教育に関する知識・技能を持ち合わせていないということがあります。
特別支援学級での指導時間
2022年の文部科学省の通知により、週の半分以上は特別支援学級で授業を受けるということになりました。
そのため、以前のように配慮が必要な教科のときだけ特別支援学級で学ぶというようなことができなくなりました。
特別なニーズを持つ児童生徒への対応
不登校児や学習不振などの特別なニーズのある児童生徒が特別支援学級で学ぶという対応をしていた学校がありましたが、2022年の文部科学省の通知より、障害のない児童生徒は特別支援学級を利用できないことになりました。
そのため、特別なニーズのある生徒が学べる場所が必要となっています。
特別支援学校
特別支援学校は、様々な障害種に対応する多様な教育機関へと進化しています。
しかし、少子化の影響により、多くの学校が廃校を迎える中、特別支援学校は年々増加傾向にあります。
この一見矛盾する現象は、社会の変化とニーズの高まりを反映しています。
対象となる児童生徒は?
特別支援学校の対象となるのは
- 視覚障害者
- 聴覚障害者
- 知的障害者
- 肢体不自由者及び病弱者(身体虚弱者を含む。)
の児童生徒であり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するためとあります。
知的障害を伴わない自閉症者や注意欠陥多動性障害者は対象外となっています。
指導内容と指導時間
指導内容 | 指導時間 |
---|---|
幼稚園に準ずる領域、小学校、中学校及び高等学校の各教科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動等のほか、障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした「自立活動」で編成される。 また、知的障害者である児童生徒を教育する特別支援学校の各教科については、知的障害の特徴や学習上の特性等を考慮した独自の教科を示している。 | 1単位時間 約45〜50分 週当たり授業時数 約25〜30 |
特別支援学校は、障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした「自立活動」をメインとすることが多い。
しかし、教科学習を全くやらないわけではなく、生徒の障害や学習の理解度に合わせて教科学習をしている。
実施形態について
- 単一障害の児童生徒は一学級6人が標準
- 重複障害の児童生徒は一学級3人が標準
- 高等部の場合は単一障害の生徒は一学級8人、重複障害の生徒は一学級3人が標準
児童生徒と教員の人数比で考えると特別支援学校が一番手厚い対応となっている。
また、一般的には小学部、中学部、高等部が一緒になっています。
特別支援学校の課題
- 教室不足
- 通学の負担
- 教員の専門性
教室不足
特別支援学校に通う児童生徒は年々増加しています。
しかし、学校数は増加に追いついておらず、1校あたりの児童生徒数は増加傾向にあります。
この状況により、教室不足や学習環境の整備不十分といった課題が深刻化しています。
通学の負担
特別支援学校は、すべての市区町村に設置されているわけではありません。
また、障害種によっては、自宅から10km以上離れた場所に該当する学校があることも少なくありません。
こうした状況を解消するために、多くの特別支援学校ではスクールバスを導入しています。
しかし、スクールバスのバス停までの送り迎えが必要となる場合も多く、通学の負担が大きくなるという課題があります。
教員の専門性
障害の重度・重複化、多様化に対応するためにさらなる専門性が求められるようになりました。
教師間の連携や専門家からの助言を活かして、よりよい教育になるようにしていく必要があります。
それぞれの違いと選び方
ここまで通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校について簡単に特徴をまとめました。
ここからは、それぞれの違いと選び方について解説します。
通級指導教室・特別支援学級・特別支援学校の違い
通級指導教室 | 特別支援学級 | 特別支援学校 | |
---|---|---|---|
対象となる児童生徒 | 肢体不自由者 病弱者及び身体虚弱者 弱視者 難聴者 言語障害者 自閉症者 情緒障害者 学習障害者 注意欠陥多動性障害者 | 知的障害者 肢体不自由者 病弱者及び身体虚弱者 弱視者 難聴者 言語障害者 自閉症者 情緒障害者 | 視覚障害者 聴覚障害者 知的障害者 肢体不自由者及び病弱者(身体虚弱者を含む。) |
指導内容 | 自立活動がメイン | 自立活動と教科指導 | 自立活動と教科指導 |
教員配置 | 13人に1人 | 8人に1人 | 6人に1人 or 3人に1人 |
専門性(免許状) | 教員免許 | 教員免許 | 特別支援学校免許 |
通級指導教室
通級指導教室は、障害による学習面や生活面における困難の改善・克服に向けた指導を行う場です。
通常の学級に通いながら、週に数回、通級指導教室で個別指導やグループ指導を受けます。
単なる各教科の遅れを補充するための指導ではなく、個々のニーズに合わせた指導を行います。
特別支援学級
特別支援学級では、特別な教育課程を組むことができ、その児童生徒にあった学習をすることができます。
そのため、自立活動の時間を増やしたり、学習の習熟度によって学習内容を変更することもできる。
特別支援学校
3つの支援体制の中で最も手厚いサポートを受けることができ、教員1人あたりの生徒数が最も少ないのも特徴です。
また、特別支援学校で働くには特別支援学校の免許状が必要となってくるので、教員の専門性という点でも他の3つと比べると高いと言える。
それぞれの選び方
発達障害の子どもにとって、適切な学習環境を整えることは非常に重要です。
子どもが伸び伸びと成長するために必要な環境はどこなのか、保護者は、子ども自身はもちろん、家族、学校の先生、専門家の人など、様々な人と相談しながら考えていくことが大切です。
支援体制を選ぶ際には、保護者の希望を優先するのではなく、子どものニーズを第一に考えることが重要です。
子どもが安心して学習できる環境、必要なサポートを受けられる環境を選ぶことが、子どもの成長につながります。
子どもに合った環境を整えてあげましょう
今回は、発達障害の子ども向けの3つの支援体制である通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校についてまとめてみました。
特別支援教育の根幹を成す考え方は、一人ひとりの子どもに合った教育とサポートを提供することです。
周りの大人が最も重要な役割を果たせるのは、子どもが無理なく伸び伸びと成長できる環境を整えてあげることだと考えています。
もちろん、教育方法や指導法も重要です。
しかし、まずは子どもが安心して学習できる環境を整えることが、その後の成長を大きく左右すると言っても過言ではありません。
今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。
気になることや質問があれば、X(旧Twitter)のDMや公式LINE、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。