境界知能・グレーゾーンって、何なの?具体例も含めて分かりやすく解説

境界知能の子どもたちは、一見すると「普通」の子どもと区別がつきません

街で出会って挨拶を交わしたり、簡単な会話をするくらいなら、何の問題もなくコミュニケーションを取ることができます

困っている様子も見えないため、周囲は特に気にすることもないかもしれません。

しかし、そんな「普通」に見える境界知能の子どもたちは、実は様々な困難を抱えています

今回は、そんな境界知能について詳しく解説していきます。

目次

境界知能とは?

境界知能は、知能指数(IQ)が70以上~85未満という数値基準で定義される状態です。

知能指数(IQ)が70未満の場合は、知的障害と診断されることがあります。

一方、境界知能の人は、障害と診断はされないことが多いです。

しかし、日常生活や学習面で様々な困難を抱えることがあり、「グレーゾーン」と呼ばれることもあります。

歴史的な経緯

1970年代まで、IQが85未満の人は知的障害者とみなされていました。
この基準によれば、人口の約14%が知的障害者に該当することになり、あまりにも広範な範囲をカバーすることになります。
知的障害は、日常生活における著しい困難を伴う状態を指しますが、IQ85未満の人すべてがそのような困難を抱えているわけではありません。

この問題点を解消するため、知的障害の基準はIQ70未満へと改定されました。
しかし、IQ70~84の範囲に位置する人々は、「境界知能」と呼ばれるようになり、新たな課題として認識されるようになりました。

知能指数(IQ)とは?

知能指数とは、知能検査を行った結果の数値です。

知能検査は、知的機能に障害があるかどうかを調べるために実施されます。

検査の種類

  • 5歳以下: 発達検査(新板K式発達検査)
  • 5歳以上: 知能検査(田中ビネー式やWISC検査)

知能障害の診断

知能障害の診断では、偏差IQ主に参照します。

偏差IQは、相対的な知能を表す指標であり、絶対的な知能を表すものではありません。

標準偏差に基づいて算出され、標準と比べてどれくらい離れているかを示します。

知能指数(IQ)による分類

障害は知的機能の程度によって分類されることがあります。

  • IQ70〜84:境界知能
  • IQ50〜69:軽度
  • IQ35〜49:中等度
  • IQ20〜34:重度
  • IQ20未満:最重度

知能指数(IQ)は目安

知能指数(IQ)は、人間の知的機能を数値化する指標として広く用いられており、特に日本では、障害者認定の重要な基準の一つとなっています。
しかし、IQはあくまで知的機能の一側面を表す指標であり、個人の能力や可能性を総合的に評価するものではありません

IQは、国が障害者認定を行う際の一種の目安として活用されています。
知的障害の認定基準はIQ70未満とされており、この数値を下回る場合は、日常生活や社会生活における困難が想定されるため、公的な支援が必要と判断されます。

しかし、IQはあくまで参考情報であり、個人の能力を評価する際には、多角的な視点が重要です。
IQが低いからといって、必ずしも日常生活に支障をきたすわけではありません
IQが60であっても、周囲のサポートや本人の努力によって、自立した生活を送っている人もいます。

近年では、IQだけでなく、適応機能や日常生活能力なども含めて総合的に評価し、障害の有無や必要な支援を判断するようになってきています。
適応機能とは、日常生活における基本的なスキルや社会的なルールを理解し、それに適応する能力を指します。

発達障害と知的障害の違い

発達障害と知的障害は、どちらも社会生活を送る上で様々な困難を抱える可能性があるという共通点があります。

しかし、具体的な違いについても理解することが重要です。

ここでは、勘違いされやすい発達障害と知的障害の違いについて解説していきます。

発達障害と知的障害の併存

発達障害と知的障害は、単独で存在する場合もあれば、同時に存在する場合もあります。

つまり、以下の3つのパターンが考えられます。

  • 知的障害のみ
  • 発達障害のみ
  • 知的障害を伴った発達障害

発達障害は凸凹、知的障害はゆっくり

発達障害と知的障害は、どちらも発達に何らかの困難を伴う状態ですが、その特性は大きく異なります
それぞれの特徴を理解することで、適切な支援や対応につなげることができます。

発達障害:凸凹のある発達

発達障害は、「発達凸凹」とも呼ばれるように、得意なことと苦手なことの差が大きいのが特徴です。
ある特定の分野では非常に高い能力を発揮する一方で、別の分野では極端に低い能力しか示さないという状態が見られます。

例えば、自閉スペクトラム症(ASD)の人は、特定の分野への強いこだわりや記憶力を持つ一方で、コミュニケーションや社会性に困難を抱えることがあります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の人は、創造性や行動力に優れている一方で、集中力や衝動性の制御に課題を抱えることがあります。

発達障害は、個々の特性によって現れ方が大きく異なるため、一人ひとりに合わせた支援が必要です。
得意なことを伸ばし、苦手なことを補うための工夫や環境調整が重要となります。

知的障害:ゆっくりとした発達

知的障害は、全体的に発達がゆっくりとしているのが特徴です。
特定の能力だけが低いというよりは、年齢相応の能力が全体的に獲得できていないというイメージです。

知的障害の程度は様々ですが、日常生活や社会生活を送る上で、何らかの支援が必要となる場合があります。
基本的な生活習慣の習得やコミュニケーション能力の向上、就労支援など、個々のニーズに合わせた長期的なサポートが重要となります。

境界知能の子どもが見逃される理由

境界知能軽度知的障害は、学校の先生や親でも気付かないケースが多々あります。

統計によると、境界知能の人は約14%存在し、これは1クラス35人の学級だと約5人に該当します。

想像以上に多くの人が存在しているにもかかわらず、なぜ気付かれないのでしょうか?

これから、その理由を説明していきます。

家庭で気づくのは難しい

毎日我が子を見ている親であっても、境界知能に気づくのは容易ではありません
その最大の理由は、基本的に我が子しか見る機会がないため、比較対象がいないことです。

同じ年齢の他の子どもと比べて、発達に遅れがあるのか、学習能力に偏りがあるのか、コミュニケーションに困難を抱えているのかなどを判断することは、親にとって難しい課題です。
特に一人っ子の場合、比較対象がさらに限られるため、気づきが遅れる可能性が高まります。

兄弟姉妹がいる場合でも、年齢差や性別、性格の違いなどから、単純な比較が難しい場合もあります。
また、境界知能は知的障害と診断されにくいという特徴もあり、親が医療機関に相談しても「経過観察」と言われてしまうケースも少なくありません。

学校の先生でも気づきにくい

様々な子どもたちを見ている学校の先生であっても、境界知能の子どもに気づくのは容易ではありません

ベテランの先生であれば、長年の経験から、特定の子どもの学習能力や行動に違和感を感じることがあるかもしれません。
しかし、特別な支援が必要と判断されることは稀です。
境界知能は、知的障害ほど顕著な困難が現れないため、見過ごされてしまう可能性があります。

若手の先生は、大学や研修などで境界知能について学んでいるものの、知識と経験には大きな差があります。
そのため、気になる子どもがいても、境界知能かもしれない、支援が必要な子どもかもしれないと気づくのは難しいのが現状です。

しんどさに気づかれないAさん

ここからは、私が担任をしたAさんという生徒について紹介したいと思います。

明るく元気な生徒会長

Aさんは、一見すると明るく元気な生徒会長でした。
中学校では生徒会に所属し、積極的に活動していました。
また、吹奏楽部にも所属し、毎日熱心に練習に励んでいました。

しかし、学習面では大きな課題を抱えていました。
数学では九九を間違えることもあり、足し算や引き算をする際には指を使って計算していました。
他の教科でも、問題の意図や説明文を理解することが難しく、長時間勉強してもなかなか学力が向上しないことに、強いストレスを感じていました。

学校生活がうまくいかず、次第に不登校気味になり、自暴自棄になって精神的に追い詰められてしまいました。
心配した家族に連れられて精神科を受診したところ、知能指数(IQ)検査を受けた結果、IQ72の境界知能であることがわかりました。

明るく活発に見えたAさんは、実は長年、周囲に気づかれないように無理をし続けていたのです。
生徒会長や部活動といった役割を懸命にこなし、周囲の期待に応えようとしていました
しかし、その裏では、学習の困難さや理解の遅さからくる劣等感、そして「なぜ自分はできないのか」という自己否定感に苦しんでいました

担任として、Aさんの状況を理解し、無理のない範囲で学習や学校生活を送れるようサポートすることにしました。
具体的には、個別の学習計画を作成し、Aさんのペースに合わせて学習を進められるようにしました。
また、授業中の指示や説明をわかりやすい言葉で伝えたり、補助教材を活用したりするなど、理解を深めるための工夫を取り入れました。

これらのサポートの結果、Aさんは徐々に学校にも再登校できるようになり、自信を取り戻していきました
そして、無事に高校に進学することができました。

Aさんの物語は、境界知能を持つ人が、適切な理解と支援があれば、自分の能力を最大限に発揮し、充実した学校生活を送ることができるということを示しています。

合理的な配慮と支援

ここでは、境界知能の子どもに対する合理的配慮と支援について解説していきます。

学校での学習体制

発達障害を伴わない境界知能の子どもは、通級指導教室や特別支援学級を利用することができません。

地域によっては、特別支援学級や別室での対応をしてくれるところもありますが、基本的には利用できません。

手厚い支援を受けたいと考えている場合は、知能指数だけでなく、その他の発達障害がないのかも確認しておくことが重要です。

通級指導教室や特別支援学級については、以前に記事にしたことがあるので、ぜひ参考にしてみてください。

学校での合理的配慮

上記の通り、発達障害を伴わない境界知能の子どもは、通級指導教室や特別支援学級を利用できません。

そのため、通常の学級でみんなと一緒に授業を受けることになります。

学校でできる合理的配慮としては、課題や問題の難易度を下げてあげるという方法があります。

可能であれば、課題を2つ用意しておき、簡単な問題と標準問題、どちらでも選べるようにしておくのがおすすめです。

この合理的配慮は、境界知能の子どもだけでなく、他の勉強が苦手な子にも有効なので、ぜひ取り入れてみてください。

基本的には、発達障害の子どもに対する合理的配慮がそのまま適用できるので、詳しく知りたい方は、過去の記事「発達障害の子どもへの合理的配慮」をご覧ください。

境界知能の子どもを支えるには

境界知能の子どもは、「もっと頑張れる」「できるはずだ」と周囲から無理を強いられてしまうことが少なくありません。

見た目や会話からは、境界知能であることに気づくのは難しいものです。

しかし、日常生活の中では、さまざまな場面で困難を感じることがあります。

  • 友達との会話についていけない
  • 相手の気持ちが想像できず、トラブルになる
  • 感情をコントロールするのが苦手で、すぐに怒ってしまう
  • 約束を忘れがちで、忘れ物が多い
  • 先生の話を集中して聞けない
  • 手先が不器用で、細かい作業が苦手
  • 体の動きがぎこちなく、運動が苦手

これらの小さな苦手が、理解されず、失敗を繰り返すことで、自信を失い、落ち込んでしまう子どもも多いのです。

境界知能の子どもを支援する第一歩は、まずその子のことを理解することです。

周囲の大人たちは、子どもの困っていることや得意なことを理解し、適切なサポートをしてあげることが大切です。

子どもを理解することが大事

境界知能の子どもに限らず、発達障害や障害のない子どもに対しても、普段からよく見てあげて理解することが大切です。

そして、できていること、できていないこと全てを認めてあげることが重要です。

もちろん、親として子どもに期待することは当然のことです。

しかし、その期待を押し付けすぎないように注意しましょう。

自分のことを理解してくれる大人が近くにいる子どもは、それだけで生きやすく、伸び伸びと成長することができます。

今回のブログ記事が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

気になることや質問があれば、X(旧Twitter)のDMや公式LINE、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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